千葉地方裁判所 昭和61年(ワ)846号 判決
原告
鈴木文男
右訴訟代理人弁護士
小泉尚義
被告
株式会社千葉銀行
右代表者代表取締役
緒方太郎
同
伊藤英雄
右訴訟代理人弁護士
澤田和夫
右訴訟復代理人弁護士
河邉義範
主文
一 被告は原告に対し金三二〇万三〇〇〇円を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の申立
一 原告
主文第一、第二項同旨。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は喫茶店等の経営を業とする者であるが、昭和六〇年八月一五日ころあらたに喫茶店を千葉県木更津市内に開設するための準備金として、金三二〇万三〇〇〇円を、被告銀行木更津東支店に普通預金として預入れた。
右預金に際しては、原告は従業員の訴外吉田安雄を右支店に赴かせ、同人をして所定の申込用紙等に記入、押印させたものであるが、都合により、口座名義人は、架空名の「村山実」とし、その住所、生年月日も架空の「木更津市東大田三丁目三番七号」「昭和一八年一〇月一四日」と記入し、印鑑も「村山」の有合わせ印を使用した。
右のようにして開設された口座は「千葉銀行木更津東支店、普通口座、番号二〇九八五三九」(以下本件口座という)となつた。
2 ところが、その後原告は営業不振から、営業規模の縮小、整理の状態となり、その混乱の最中、前記の預金通帳及び印鑑を紛失してしまつた。
3 しかし、原告自身が前記預金の出捐者であり、訴外吉田安雄を使者として、被告銀行に三二〇万三〇〇〇円の預金をしたことは事実であるから原告は被告に対し、金三二〇万三〇〇〇円及び預入日から支払日まで、被告銀行所定の利息の支払いを求める権利がある。
よつて、本訴を提起する次第である。但し、利息については計算が困難のため、とりあえず元金のみ請求する。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1項
村山実(昭和一八年一〇月一四日生)名義で住所を「木更津市東大田三丁目三番七号」とし、「村山」なる印を使用して開設された「番号二〇九八五三九」なる普通預金口座が被告木更津東支店に存在することは認める。その余は否認する。
2 同2項は不知。
3 同3項は争う。
第三 証拠関係〈省略〉
理由
一本件口座が被告木更津東支店に存在することは当事者間に争いがない。
〈証拠〉によれば次の事実が認められる。
1 原告は株式会社ワールド通商を経営し、喫茶店経営をしていたところ、昭和六〇年八月頃、訴外吉田安雄に対し、架空名義で普通預金をするよう依頼し金三二〇万三〇〇〇円を託した。
2 訴外吉田安雄は、同月二二日被告木更津東支店において、木更津市内の文房具店で購入した「村山」名義の印鑑を用いて、本件口座を開設し、金三二〇万三〇〇〇円を普通預金として預入れた。
3 原告はその後右訴外吉田から右預金通帳と印鑑を渡されたが、これを昭和六〇年一二月中旬頃紛失した。
右認定に反する証拠がなく、右事実によれば本件口座の預金は原告の出捐したものであり、その返還請求権は原告に属することが明らかであるので、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官荒井眞治)